
就職活動を潜入レポート
Y電機は日本的経営の会社の典型だといわれるが、中卒で入社した私がここまで歩んでくることができたのは、社会人として長い人生を歩んでゆくときに必要なキャリア形成と福利厚生の両面にわたるサポートシステムが各年齢層に応じてセットされていたからにほかならない。
それと同時に、多くの同僚や仲間、そしてY元社長やM前社長のような優れた経営者とのかかわりが、どれだけ私の人生を豊かなものにしてくれたかはかり知れない。
映画に出演したこともある。
映画は、一九六八年に製作された「ドレイ工場」という実録ドラマで、総監督は「忍びの者」「あゝ野麦峠」などを演出した社会派のYさんである。
内容は工場閉鎖で全員解雇された日本ロール労組 の闘いを描いたもので、製作費がないので各組合を回って資金カンパや役務提供を求めて製作したものである。
Y電機労組へも協力要請があったが、その内容は、あるシーンのエキストラを丸ごと引き受けてほしいというものだった。
当時、私は組合の渉外部長をしていたので、この話の窓口になった。
映画出演と問いただけで、内容もよく確かめないで、とにかくおもしろそうだと、〇人くらいを引き連れて揖影現場に向かった。
現場に到着して初めてわかったのは、われわれが出演するのは、閉鎖された工場になお居座っている労組員をつまみ出そうと、経営者側に雇われた暴力団員が乗り込んでくるシーンであり、なんとその暴力団員役だということだった。
暴力団員役であろうとなんだろうと、ここまできたら引き下がるわけにはいかない。
結局わずか数分のシiンのために、丸一日撮影につき合わされる羽目になった。
それでも、めったにない体験だけに、私をふくめて全員が「てめーら、ぶっ殺すぞ」といって採み合うシ1ンを、何度もダメ出しされながら、一生懸命に演じたのである。
やがて一、二月して映画が完成し、労働組合主催の試写会が公会堂を借り切って盛大に催かたずされた。
例のシーンになると、出演したみんなは固唾をのんで身を乗り出している。
私もたしかに出演したはずだが、映画を見ると、自分がいったいどこに登場しているのか、ほとんどわからなかった。
私はこうした得がたい体験をいくつも重ねながら、人生を歩んできた。
中卒で入社して、すぐ夜間高校に通い、測定器の製造を振り出しに、最後はYの社長を兼務しながら健康菅理センターの所長として現役生活を終わった。
現在はY顧問、武蔵野エルダー常務理事として働いている。
この問、会社の処遇に不満をもったことは一度もない。
それどころか、中卒入社の悪ガキに過ぎなかった私を、会社はよく面倒を見て、なんとか社会人として使いものになるようにしてくれたと感謝している。
Yの仲間たちとともに私が脳梗寒一で倒れ、必死のリハビリの末、職場復帰を果たした日、さっそく最長老のKさんがやってきて、「よう、大丈夫かい、無理するなよ。
丹下左膳になっちまうぞ」と声をかけてくれた。
そういう一言を聞くだけで、病気のほうがスーッと引いていくような気がするから不思議なものである。
私がここまでこれたのも、こうしたY仲間がいたからだ。
いま、このY社員の聞にちょっとした新しいブームが起きている。
ほとんどの人がパソコンを始めたのである。
この職場の変化に私も乗り遅れるわけにはいかない。
妻と子どもを先生に、猛烈な特訓をした結巣、なんとかキーボードを叩けるようになった。
始めるとおもしろいもので、お互いにアドレスを教え合って、ひんぱんにEメールの交換をするようになった。
Y仲間をお互いに親密にする新しい武器が、こうしてまた一つ培えた。
この先、彼らは何年働き続けるか、またY会社が何年存続するか、明確なことはわからない。
しかし、はっきりしているのは、私も彼らも、会社とともに生きてきたことである。
私が会社のよき「石垣」になれたかどうかは自信がないが、願わくば、これからも会社とともに生きたい。
仲間とともに生涯働き、在職中に生を全うしたいという密かな願いをもっている。
これはおそらく、Y社員みんなの願いではないだろうか。
定年後の友人とは目的に応じたつき合いを定年後も豊かな人間関係に恵まれるかどうかは、その人がどれだけ古い友人を大切にするかによって決まってくる。
もちろん、その人が再就職して働くか、それとも完全にリタイアするかによっても状況は大きく違うだろう。
再就職した場合は、職場の人間関係があるので、社会的に孤立した状態に陥ることはまずない。
しかし家に引きこもった場合は、家族だけが話し相手ということになりがちだ。
いわゆる「濡れ落ち葉」の悲哀である。
われわれの年代になると、ただでさえ新しい友人と出会う機会は減ってくる。
だからこそ、古くからつき合ってきた友人は貴重だということになる。
私の場合は、その友人たちを五つのグループに分けてつき合っている。
会社関係の友人、幼なじみ、本当の遊び仲間、親友、なんでもわがままがいえる朋友、という五つのグループである。
これらのグループとそれぞれ長くつき合っていくコツは、グループごとの暗黙のルールを守ることだと考えている。
たとえば、の会社関係の友人の場合は、お互いの家庭生活には立ち入らないことを原則としている。
そうすれば、会社を辞めてもつき合いは長続きする。
遊び仲間とは、その遊びに限定したつき合いを続けている。
彼らもまた会社で知り合った仲間がほとんどだが、もう退職して何年にもなる飲み友だちやゴルフ仲間、マージヤン仲間、カラオケ仲間がたくさんいる。
最近は携帯電話という便利なものができたので、いちいち「〇〇さんをお願いします」と取次をしてもらわなくても、ダイレクトに電話することができる。
リタイア組も現役組に遠慮なしに「もしもし、今晩どうだ」と遊びの誘いができるようになった。
なかには会社とは関係のない外部の友だちもいる。
M前社長が元気な時代はMさんも参加していたが、彼と慶応ラグビー部で同別だった人がいて、その人からよく携都電話で「今日、六時だよ」とマージャンの誘いがある。
それだけで場所もメンバーもいつものところと了解するが、携帯電話は友だちを継続させるものだというのが実感である。
そういう仲間とは、ゴルフはゴルフ、マージャンはマージャンだけに割り切ったつき合いにしている。
おもしろいのは、それらのグループはそれぞれに肌合いの違う人たちが集まっていることだ。
彼らとつき合うことで、知らないうちに多様な人間像とふれあうことになるのである。
いくら親しくしている友人でも、歳とともにやがて体力の衰えや病気になって外出できなくなることがある。
そういうふうにしてつき合いが減ってくるのが老後の厳しさである。
そして、最終的には奥さんだけが話し相手ということになる確率は高い。
ところが、その奥さんから「私はあなたの面倒はみません」といわれたら、一人で生活したことのない高齢者は本当に困る。
定年後何日かたったある日、妻から「私だって、いま家でこういう仕事をしています。
毎日、家でぶらぶらされたのでは迷惑です」といわれた人がいた。
いままで仕事だ、仕事だといってまともに家族と向き合ってこなかったからだが、長い年月をかけて蓄積された夫婦の感情のしこりというものは、一朝一夕に消えるものではない。
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